公益財団法人 小林製薬青い鳥財団

助成事業

記事作成日:2026年10月

特定非営利活動法人i-care kids京都 様

「居場所と食で、子どもと家族の当たり前を守りたい」

―― 医療的ケア児保育園立ち上げの軌跡と、お庭がくれた豊かな時間

2019年度助成プログラムで採択された特定非営利活動法人i-care kids京都さんを訪問し、代表の藤井さんにお話を伺いました。京都の静かな街並みの中で、医療的ケアが必要な子どもが通う小規模保育園「キコレ」を運営しています。手作りのおやつを味わいながら、立ち上げのきっかけとなった想い、「食」と「お庭」へのこだわり、そして未来に向けた構想を語っていただきました。

採択年度

2019年度

採択プログラム名

医療的ケア児が通える小規模保育園に“お庭”をつくるプロジェクト

採択金額

3,088千円

1. 手作りのしそジュースとプリン!子どもたちと育む「食」と「お庭」

財団

わぁ、綺麗な色のジュースですね!プリンも美味しそうです。

藤井様

しそジュースとプリンというユニークな組み合わせですけれど(笑)。このしそジュースは子どもたちと一緒に作りしました。京都大原のしその葉をみんなで摘んで、お鍋でくつくつ煮て、こし器を使って仕上げました。当園では、お庭での栽培や食事の時間をとても大切にしています。

財団

2019年度に採択させていただき、ちょうど2020年春の開園されるタイミングで助成金をお渡しできましたね。私どもの助成金は、お庭の整備や植栽等の購入に充てていただきました。

藤井様

はい、本当にありがたいタイミングでした。当時の写真を振り返ると、私自身も驚くほど最初は何にもなくて、砂利が敷き詰められただけの荒れた土地だったんです。採択が決まってからは、まず砂利を取り除く作業から始めました。車椅子や子どもたちが移動しやすいようにスロープデッキを取り付け、少しずつ植物を増やしていきました。

財団

都市部でお庭がある保育園というのは、とても贅沢で理想的な環境ですね。

藤井様

グランドカバーとして植えた「クラピア」という緑は、ほんの一部に植えただけで、夏には一面に広がって地面を覆ってくれました。最初は半信半疑でしたが、まるで魔法のように劇的に広がって驚きました。冬場は少し茶色くなりますが、一年を通して緑を楽しめる癒やしの空間になっています。また、シンボルツリーとしてジューンベリーの木も植えました。初年度からたくさん実がなり、子どもたちと収穫した実を使ってジャムを作り、パンケーキにかけていただくこともあります。野菜も育てていて、最近は気候の影響で不作な年もありますが、きゅうりやトマト、ナス、オクラの他、ピッコロ人参という小さなニンジンを収穫して給食で味わっています。秋にはお花屋さんで買ったチューリップの球根を植えたりしています。土と緑があるだけで、子どもたちや職員が園で過ごす時間が本当に豊かになっていると実感しています。

砂利だらけだった土地が、今では実り豊かな庭に。この日はイチゴが実っていました!

2. 一人ひとりに寄り添う、こだわりの給食

財団

お話を聞いていると、給食スタッフの皆さんが非常にご活躍されている様子が伝わってきます。

藤井様

そうなんです!管理栄養士1名、調理員3名という計4名体制で、日々工夫を凝らしてメニューを考えてくれています。離乳食やアレルギー対応食はもちろんですが、刻み食や幼児食、そして医療的ケアが必要なお子さんのためのミキサー食まで、一人ひとりの発達や体調に合わせて細やかに対応しています。例えば同じミキサー食でも、「お鼻のチューブから入れる子」と「胃ろうから入れる子」では、手持ちの器具や流しやすさに合わせて、食形態の固さやとろみの付け方を変えています。

財団

そこまで個別に合わせた対応をされているのですね。

藤井様

見た目も味もおしゃれで、本当に美味しいんですよ!子どもの日の特別メニューや、七夕のそうめん、手作りパンや打ちたてのおうどんなど、行事や季節に合わせたメニューを作ってくれます。職員も毎日の給食を楽しみにしているほどです(笑)。

財団

素晴らしいスタッフの方々とのご縁があったのですね。

藤井様

給食作りの中心となっている職員は、実は私が以前勤めていた病院での元同僚です。街中で偶然再会した際、「今度こんな保育園をつくりたいんだけど、手伝ってくれない?」と声をかけたら快諾してくれて。それ以来、ずっと現場を支えてくれています。

こだわりの給食は、見た目にも美味しくて楽しい仕上がりになるように工夫しています

3. 立ち上げのきっかけ―「家族が一緒に過ごせる選択肢」をつくりたい

財団

藤井さんがこのプロジェクトを立ち上げようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

藤井様

きっかけは、私の二男が「18トリソミー」という重度の疾患を抱えて生まれてきたことでした。生まれたときは「1歳まで生きられる子は10人に1人」と言われるような疾患で、心臓や肺の病気を持ち、人工呼吸器が必要な状態でした。
我が子が入院しているとき、同じように重い病気や障害を持つお子さんを抱えるご家族にたくさん出会いました。共働きのご家庭や、他のきょうだいのケアがあったり、仕事を辞められない親御さんも多く、自宅に連れて帰る準備が整わないために、長期入院や施設入所を選ばざるを得ない状況を目の当たりにしました。家族が一緒に暮らせないというのは、本当に切なく苦しいことです。「保育園という受け皿があれば、保護者の方が仕事を諦めずに、子どもをお家に連れて帰って一緒に過ごせるのではないか」―― そう強く思ったことが、立ち上げの原点でした。

財団

医療的ケア児を受け入れる保育園の開園には、大変なご苦労があったと思います。もともと行政や福祉の分野に携わっていらっしゃったのですか?

藤井様

大学で障害児教育を専攻し、病院勤務の経験もあったので、医療や福祉の現場には携わった経験がありました。しかし、当時は医療的ケア児のための保育園に関する制度も法律もなく、資金も土地もない“一主婦”からのスタートでした。
「想いと経験を集めれば何とかなる!」と前向きに突き進んだものの、最初は本当に大変でした。医師が集まる学会会場で募金箱を持って立ったり、企業を回って説明したり、クラウドファンディングを立ち上げたりと、ありとあらゆるファンドレイジングを行いました。途中で挫折しそうになることが何度もありましたが、クリスマスイブに匿名で多額のご寄付をいただくなど、温かい支援に助けられながら、何とか乗り越えてこられました。青い鳥財団さんからの助成も、私たちの背中を大きく押してくれました。

ドネーションツリーには、支援してくださった方々の名前を記入した葉っぱが繁っていました

4. 開園と同時に直面した、コロナ禍での猛烈なプレッシャー

財団

開園された2020年は、ちょうど新型コロナウイルスが流行し始めた時期でしたね。

藤井様

直撃でした!2020年4月の開園でしたが、感染対策のため入園式を30分おきに1家族ずつ行うような状況でした。人工呼吸器をつけている重症のお子さんをお預かりする中で、「もし感染させてしまったらどうしよう」という猛烈なプレッシャーと緊張感がありました。「なんて大変な仕事を始めてしまったんだろう」と途方に暮れることもありました。

財団

資金面の苦労とはまた違う、命を預かる重圧ですね。

藤井様

本当にそうなんです。立ち上げるまでは自分と志を共にする仲間と突き進めばよかったのですが、開園してからは「命」をお預かりしていますから、常に緊張状態でした。しかも当時は手本となる前例がどこにもない状態でした。看護師、保育士、栄養士など、異なるバックグラウンドを持つ専門職が集まって、手探りでチームを作っていく必要がありました。
最初の3年間は試行錯誤の連続で、離職率も高く、安定したチームが完成するのはいつになるのだろうと、果てしない不安を抱えていました。ですが諦めずに一つひとつ課題を乗り越えてきた結果、ここ2年ほどは離職者も出ず、職員各々が主体的に考えて動いてくれる、本当に素晴らしいチームへと成長しました。

5. 地域とのつながりと、これからの未来

財団

行政との連携や、地域のコミュニティとの関わりについてはいかがですか?

藤井様

京都市でも医療的ケア児の保育制度を整え始めてまだ7〜8年ほどで、行政側も手探りの状態です。現場の「こういう支援が必要」であるとか、「今の制度だと頑張るほど補助金が減ってしまう」といったリアルな声を伝えながら、一緒に制度を作り上げている感覚です。
また、地域との繋がりもすごく大切にしています。開園当初は大きな看板を出していなかったので、ご近所の方も「何ができるんだろう?」と不思議そうにされていました。しかし、お散歩で挨拶を交わしたり、小学校の防災訓練や地域の子育て支援ネットワークに参加したりするうちに、少しずつ存在を知っていただけるようになりました。近所のおばあちゃんがおもちゃやタオルを寄贈してくださったり、「今年はお庭のマルシェやらないの?」と声をかけてくださったり。地域の方々が温かい目で見守ってくださっていることが、防犯面でも精神面でも心強く、本当にありがたいことだと感じています。

シンボルツリーのジューンベリーと代表の藤井さん

財団

今後取り組んでいきたい新たなチャレンジや目標はありますか?

藤井様

現在、具体的に構想しているのは、「長期入院しているお子さんのお母さん・お父さんにおいしいお弁当を届けるプロジェクト」です。私自身、我が子の入院付き添いを経験したからこそ痛感しているのですが、病院につきっきりの親御さんは、毎日コンビニのお弁当などで済ませがちで、自分の身体をケアする余裕が全くありません。
私たちは「食」にこだわりと強みを持っています。栄養バランスの整った手作りの温かいお弁当を届けることで、お母さん・お父さんの心と体を支えたいと考えています。保育園の運営をしっかり継続させつつ、数年後にはこのお弁当プロジェクトもカタチにできるよう、また一歩ずつ進んでいきたいと思っています。

取材を終えて

助成プログラムを通じて整えられたお庭や環境の中で、子どもたちと職員の皆さんが生き生きと過ごされている様子を拝見し、助成の大きな成果を実感いたしました。
これから挑戦しようとしている、付き添い家族へ手作りの食事をお届けするプロジェクトによって、子どもたちとご家族に寄り添う温かいネットワークが、今後さらに地域社会へ広がっていくことを心より期待しております。
取材時にいただいた手作りプリンはとても美味しく、作り手の深い愛情を感じる懐かしくて優しい味がしました。

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